こんばんは、りゃんです。
前回は愚痴っぽい記事でしたが、スターやブコメ、コメントをくださった皆様ありがとうございました!
(拍手もありがとうございます!)
本当に皆様に支えられて更新を続けられていると思います。
また落ち込んだりする日もあるかと思いますが、
皆さんからパワーをもらって、これからもいろんな記事を書いていけたらと思うので、
どうぞよろしくお願いします。
それでは、今回は「ひとみと雪春」の掌編小説(習作)です。
初めに設定を読むとスムーズに読めます。
akumu-hinageshi.hatenablog.com
雪春一人称です。
タイトル:おかえりなさい
ずっと寝ていると布団でさえ硬く感じられてくる。こういう感覚ももう何度目だと思うと、ふいに気が遠くなっていくような、少しくらくらするような感じがあった。そろりと布団から抜け出して、ベランダの塀の方へ寄りかかってみる。夕方になりかけた街の風景がなんともいえず未視感 を覚えさせ、雪春はしばらくそれに見入っていた。
「ただいまー。」
そんな声が聞こえた気がして、振り返る。そこに、予想した姿はなかった。ぼうっと、部屋の中に視線を投げる。薄い黄色のような、暖色に染まった部屋を見ていると理由のわからない感慨が胸にせり上がってきた。
この部屋で、何度季節が巡っただろう。つらかったことはたくさん、嬉しかったことはよく覚えてない、その他の不安や、雑然としたよくわからない感情はたくさんあった。そんな部屋が今、急によそよそしくなってしまった気がしてにわかに落ち着かない気分になった。現実感を得たい時によく手のひらを見つめるが、それで現実感の帰ってきた試しがない。相変わらず、世界は遠く、自分の体、自分の容れ物すら遠く感じられたままだ。
それでも、長く変わらなかった何かが確かに変わったことはわかって、それが嬉しいことなのか悲しいことなのかわからず、わからぬままに泣いた。
「ただいま。」
だいぶ時間が経ち、日が暮れた後、いつもの浮かぬ声が玄関から届いた。雪春は布団の中で天井を見ていた。白くて、ところどころにシミのある視界。見慣れた風景だ。雪春は起き上がって、帰ってきたひとみの前まで行くと、その目をまっすぐ見つめて言った。
「おかえりなさい。」